前回の記事では、評価面談は単なる査定の場ではなく、「組織づくりの大きなチャンス」である、というお話をしました。
そして、その質を大きく左右するのが 「上司力」 です。

3月も中旬になり、あと半月もすれば新年度がスタートしますね。
4月のオフィスはフレッシュな空気に包まれる一方で、新入社員も先輩社員も、どこかソワソワした緊張感に包まれる……そんな感覚はないでしょうか。
組織にとってこの時期は、変化が起きやすいタイミングです。
これをチャンスと捉えるか、単なる業務としてこなすかで、その後の1年、あるいは数年先の未来は大きく変わります。
そんなときに必要なもの。
それは 「マインドセットの時間」 を持つことです。
目標設定やフィードバック、昇格・昇給の面談。
4月から7月にかけて、多くの企業で「評価面談」が集中します。
ここで一度、リーダーであるあなたに問いかけたいのです。

「正直なところ、あの部下との面談、ちょっと気が重いな……」
「何を言っても響かない気がするけれど、どう伝えればいいんだろう」
そんなふうに、どこかで「相性」のせいにして諦めてしまっていませんか?
本日のテーマは、
この評価面談を感覚ではなく「科学」に変える視点について、じっくりと掘り下げていきます。
なぜ、私たちは「相性」で人を判断してしまうか
面談の現場で、あるいは日々のマネジメントの中で、こんな言葉を口にしたり、心の中で思ったりしたことはありませんか。
- 「もっと主体性を持ってほしいのに、いつも指示待ちだ」
- 「スピード感を持って動いてほしいのに、慎重すぎて機を逃している」
- 「何を考えているのかわからない。やる気が見えない」
しかし、これらは本当に相手の「能力不足」や「やる気の欠如」なのでしょうか。


私たちを邪魔する「バイアス」の正体
心理学の世界では、私たちは無意識のうちに「類似性バイアス」に支配されています。
これは「自分と似た価値観や行動パターンを持つ人を、高く評価してしまう」という性質です。
例えば、あなたが「即断即決こそが正義」と信じているタイプなら、同じように早く動く部下を「デキるやつ」と思い、じっくり考える部下を「遅い、やる気がない」と判断しがちです。
さらに、一度「あいつは消極的だ」と思い込むと、その思い込みを裏付ける証拠ばかりを探してしまう「確証バイアス」も働きます。
評価は、事実だけで決まるものではありません。
そこには必ず「上司側のメガネ(主観)」が入り込みます。
このメガネの存在に無自覚なままでは、どれだけ公正な評価制度を導入しても、現場では「相性」という名の不公平感が消えることはありません。
「感覚」を「科学」に変えるPSAの視点
では、どうすればこの主観の呪縛から逃れ、再現性のある面談ができるのでしょうか。
弊社が組織変革の支援において最も重要視し、活用しているアセスメントの一つが、
精神医学と大脳生理学をベースにした診断ツール
「PSA(Personality Spectrum Analysis)、以下PSA」です。
PSAの最大の特徴は、パーソナリティを固定された「性格」としてではなく、脳の仕組みに基づく「エネルギーの傾向」として科学的に捉える点にあります。
具体的には、人のパーソナリティを次の 2つの層 で解き明かします。


① 情動のパターン(大脳辺縁系)
これは、遺伝的・先天的で、生涯にわたって「変わりにくい自分」です。 何にワクワクし、何に恐怖を感じるのか。刺激に対して無意識に湧き上がる、行動のガソリンのようなものです。これを否定することは、その人の存在そのものを否定することに等しく、無理に変えようとしても歪みが生じてしまいます。
② 心の筋力(前頭葉)
一方で、こちらは経験や学習によって育つ「変えられる自分」です。 湧き上がった情動を客観的に見つめ、コントロールし、状況や相手に合わせて適切な行動を選択する力です。
マネジメントにおいて最も重要な発見はこれです。
「あいつとは合わない」というストレスの正体は、人格の否定ではなく、「私と彼は持っている『情動のパターン(脳のクセ)』が違うだけだ」という客観的な事実(科学)なのです。
実践:8つのタイプから読み解く「相手の地図」
PSAでは、人の情動パターンを8つのタイプとして可視化します。


面談の質を劇的に変えるために、それぞれのタイプが何を「快」とし、何を「不快」とするのかを知っておく必要があります。
もし、あなたが「情熱家(未来・自由)」タイプの上司で、部下が「慎重家(安全・合意)」タイプだったとしたら……。
あなたが良かれと思って提案する「もっと自由に、リスクを恐れず挑戦しろ!」という言葉は、部下にとっては「崖から飛び降りろ」と言われているような恐怖に映っているかもしれません。
これが「相性」というものの正体です。
PSAという共通言語を持つことで、上司は「自分の物差し」ではなく、「相手の地図」を見ながら会話ができるようになります。
ケーススタディ:面談は「翻訳」の時間
また、実際にあった、ある組織での変化をご紹介します。
【Before:感覚による面談】
上司(挑戦性が高いタイプ)は、若手部下に対して「主体性がない」とイライラしていました。 面談でも「もっと自分から提案してこい」「やる気があるのか?」と詰め寄ってしまいます。部下は萎縮し、さらに発言しなくなるという悪循環に陥っていました。
【分析:科学の視点】
PSAの結果、部下は極めて「慎重性が高い(不安になりやすい)」タイプであることがわかりました。 彼はやる気がないのではなく、「失敗してチームに迷惑をかけるのが怖い」「完璧に準備ができていない状態で発言してはいけない」という責任感ゆえに動けなかったのです。
【After:翻訳による面談】
特性を理解した上司は、言葉をこう「翻訳」しました。



「君がいつもリスクを丁寧に検討してくれていること、本当に助かっているよ。その慎重さは我がチームの武器だ。 だからこそ、完璧にまとまってから報告しなくていい。 50%の段階で『ここが不安です』と共有してくれることが、僕にとっては一番の安心材料なんだ。一緒にリスクを潰していこう」
どうでしょうか。
伝えている「こまめに報告してほしい」という事実は同じです。しかし、相手の特性(慎重さ)を「強み」として定義し直し、不安を解消する言葉を添えたことで、部下の表情は劇的に変わりました。
面談とは、成果を一方的に裁定する時間ではありません。
「上司の期待」と「部下の特性」の間にあるギャップを埋めるために、価値観を翻訳し合う時間なのです。
理論的裏付け:なぜ「関係の質」がすべてなのか
組織開発には、元MIT教授ダニエル・キム氏の「成功循環モデル」という考え方があります。
- 関係の質(お互いの特性を理解・尊重する)
- 思考の質(前向きな気づき、当事者意識)
- 行動の質(自律的な挑戦)
- 結果の質(成果・目標達成)
多くのリーダーは「行動」や「結果(売上・成果)」を真っ先に変えようとします。しかし、結果を急かすほど「行動」が硬直化し、成果は遠のきます。


成功へのスタート地点は、常に「関係の質」にあります。
- 「この上司は、自分のことを正しく理解してくれている」
- 「このチームでは、自分の特性を活かす場所がある」
そう思える関係性があって初めて、人の「思考の質」はポジティブになり、「行動」が変わり、最終的に「結果」がついてくるのです。
PSAを用いた面談は、まさにこの「関係の質」を高めるためのツールとして活用されています。 「評価される場」という心理的脅威を、「自分を理解し、活かしてくれる場」という心理的安全へと変容させる。これが、科学に基づいたマネジメントの力です。
「上司力」の再定義:これからのリーダーに求められること
これまでの「強いリーダー」のイメージは、声が大きく、部下を力強く引っ張り、時には厳しく叱咤激励する姿だったかもしれません。 しかし、多様性が叫ばれ、一人ひとりの個性を活かすことが競争力になるこれからの時代、「上司力」の定義は変わります。
新しい時代の上司力とは、 「自分の脳のクセ(特性)を自覚し、相手の情動を尊重し、最高のパフォーマンスが出る関係性を設計できる力」 のことです。
経験や勘は大切です。しかし、そこにPSAのような「構造的な理解」が加わることで、あなたのマネジメントには再現性が生まれます。
感覚だけでやっているうちは、自分と似た部下しか育てられません。 しかし、科学を取り入れれば、自分とは全く違う強みを持つ部下をも、最高の戦力として輝かせることができるのです。
最後に:面談の質が、組織の未来を決める
4月からの面談シーズン、あなたはどのような心持ちで部下と向き合いますか?
自分の使い慣れた「物差し」を一方的に押し当てるのか。
それとも、相手という一人の人間の「設計図」を大切に広げ、共に未来を語り合うのか。
羅針盤があれば、面談はもっと自由で、もっとワクワクするものに変わります。
評価は「過去の減点」ではなく、「未来の可能性の設計」です。
「違う強みを持つ人」が、互いの特性を尊重し、パズルのピースのように組み合わさって、想像もできないような大きな力を発揮する組織。 そんな、心踊るワクドキな組織づくりを、㈱Tenmaruはこれからも全力で支援していきます。
あなたのチームに、新しい「理解の風」が吹くことを願っています。
「自分の情動タイプを知りたい」
「うちのチームでもPSAを取り入れてみたい」
「具体的な声掛けの方法をもっと詳しく聞きたい」
そう思われた方は、ぜひお気軽にコメントやお問合せフォームにご連絡をください。
共に、人が活きる組織をつくっていきましょう!

