「新入社員より、先輩の方が参っています」~OJTを任された先輩社員が戸惑う前に読む処方箋~

「新入社員より、先輩社員の方が参っています」

ある人事担当者から、こんな相談を受けたことがあります。

4月に新入社員が入社し、現場ではブラザーシスターとして2〜3年目の先輩社員が育成を担うようになった。新入社員は少しずつ職場に慣れてきているのに、肝心のブラザー・シスターである先輩社員がどんどん追い詰められていく。

「育てる側が燃え尽きてしまったら、どうすればいいんでしょう」

そう言う人事担当者の表情に、困惑と焦りが滲んでいました。

6月。新入社員が入社して2ヶ月が経ち、現場でのOJTが本格的に動き始めるこの時期、実は「育てられる側」より「育てる側」の戸惑いや負担感が深刻な問題になっているケースが少なくありません。

今回のコラムでは、見落とされがちな「ブラザー・シスターの戸惑い」問題と、組織としてどう向き合うべきかをお伝えします。

目次

ブラザー・シスターに任命される若手社員の現実

配属先の現場では、2〜3年目の若手社員や中堅社員が「ブラザー・シスター」として新入社員のそばに寄り添い、日常的な育成を担うケースが多くあります。いわば、職場での「兄・姉」のような存在です。

メンターやOJTトレーナーとは異なり、より日常的な関係の中で「仕事のこと」だけでなく「職場の雰囲気」「社会人としての振る舞い」「ちょっとした悩み」まで、幅広く新入社員に寄り添う役割を期待されます。

私、諸戸も前職の広告代理店で、このブラザー・シスター制度を経験した一人です。

その職場では、毎日10〜15分の「レボチェック(レボリューションチェック)」と呼ばれる時間が設けられていました。
ペアになったブラザー・シスターと呼ばれる若手社員と新入社員が毎日、「今日どうだった?」「何か困ったことはある?」とその日の進捗を確認し合う。
仕事の話だけでなく、ちょっとした不安や戸惑いを気軽に話せる場として機能していました。

「何かあったときに話せる相手が身近にいる」
ただそれだけで、新入社員の早期離職リスクは大きく下がります。
問題が小さいうちに相談でき、一人で抱え込まずに済む。新入社員にとっての「安心の拠り所」が、日々の短いチェックインから生まれていたのです。

この経験があるからこそ、当社、株式会社Tenmaruではブラザー・シスター制度を「組織全体の安心をつくる仕組み」として捉えています。だからこそ、その役割を担う先輩社員が戸惑いながら余裕を失う時間にしてはいけないと強く感じています。

「仕事もできる」「後輩の面倒見がいい」「コミュニケーションが上手」
そういった理由でOJTを任された先輩社員は、確かに職場の中でも頼られる存在です。

でも、ここに大きな落とし穴があります。

「仕事ができること」と「人を育てられること」は、まったく別のスキルです。

自分が仕事をこなすことと、その仕事を相手に教え、理解させ、できるようにさせることは、使う能力がまるで違います。にもかかわらず、多くの組織では「若手社員の育成=後輩指導もスキルアップになるはず」という思い込みのまま、準備も支援もないままブラザー・シスターに任命してしまいます。

加えて、ブラザー・シスターに任命された若手社員のほとんどは、自分の業務をこなしながら育成も担うという二重の負荷を抱えています。

自分の仕事を終わらせながら、新入社員の質問に答え、進捗を確認し、ミスをフォローし、時にはモチベーションまで気にかけなければならない。しかも「どこまでやるのが正解か」の基準もない。どうなると思いますか?

これまでTenmaruが現場で見てきた経験から言えば、ブラザー・シスターが戸惑い、追い詰められていく背景には、ほぼ例外なくこの「準備なき任命」と「サポートなき孤軍奮闘」があります。

「育てる側が折れる」と、何が起きるのか

ブラザー・シスターが戸惑い、余裕を失い始めると、組織の中で静かに連鎖が起き始めます。

まず、新入社員への育成の質が下がります

余裕がなくなったブラザー・シスターは、丁寧に関わる時間も気力も失っていきます。
「わからないことがあったら聞いて」という言葉も、明らかに忙しそうな先輩の背中を見ていると言い出しにくくなる。結果として、新入社員は相談することを遠慮し一人で抱え込むようになる、GW明けに続いて離職リスクがさらに高まります。

次に、ブラザー・シスター自身が「この会社でやっていけるのか」と思い始めます。

「なぜ自分だけこんなに大変な思いをしなければならないのか」「頑張ってもあまり評価されない」
こうした感情が積み重なると、組織が大切に育ててきた優秀な若手社員自身の離職につながることがあります。育てた側が先に辞める、という皮肉な現象です。

そして、「ブラザー・シスターはしんどい」という口コミが社内に広まります。

次年度、候補を探そうとしても「やりたくない」「あの役割は損をする」という空気が広がっていて、誰も手を挙げない。
私が現場で何度も聞いてきた「あるある」のひとつです。

一人のブラザー・シスターの戸惑いが、組織全体の育成文化を蝕んでいくのです。

なぜブラザー・シスターは戸惑うのか—4つの根本原因

「何をどこまでやるべきか」の基準がない

「新入社員の面倒を見てください」と言われても、何をどの順番で、どのレベルまで関わればいいのか、明確な基準を持たないまま任命されるケースがほとんどです。

「仕事の教え方」はわかる。でも「どこからが自分の役割で、どこからが上司の役割か」の線引きがわからない。「これは私がやるべきことなのか」と悩みながら、結果として抱え込んでしまう。

この「正解のなさ」が、じわじわとブラザー・シスターを消耗させます。

「育てること」が自分の評価に見えてこない

自分の業務目標は変わらないまま、育成という仕事が上乗せされる。
頑張って育てても、それが自分の評価に繋がっているのかどうかよくわからない。
そんな状態が続くと、「なんのためにやっているんだろう」という虚無感が生まれます。

「ブラザー・シスターをやると損をする」という構造が組織に根づいてしまっては、育成文化は育ちません。

「うまくいかないとき」の相談先がない

新入社員がなかなか覚えてくれない。何度教えても同じミスをする。元気がなさそうで、どう声をかければいいかわからない。

こうした困りごとを抱えても、「相談できる人がいない」という状況に置かれているブラザー・シスターは多くいます。
管理職は忙しそう、人事には言いにくい、同期に話しても解決策はわからない。孤独な状態で問題を抱え込むうちに、限界を迎えます。

「自分もまだ成長の途中」という事実

OJTを任される2〜3年目の若手社員は、自分自身もまだ仕事を覚えている途中です。
自分のキャリアについて考え始める時期でもあります。

そのタイミングで「育てる役割」を担うことは、本人の成長にとって大きなチャンスである一方、適切なサポートがなければ「自分の成長機会を奪われている」と感じさせてしまうことにもなりかねません。

組織として今すぐできる「処方箋」

では、ブラザー・シスターの戸惑いや消耗を防ぐために、組織は何ができるのか。
私が現場で効果を見てきたアプローチをご紹介します。

処方箋① ブラザー・シスターに「役割の地図」を渡す

「何をどこまでやるべきか」の基準を、組織として明確にすること。
これが最初の一手です。

入社後1ヶ月でここまでフォローしてほしい、3ヶ月後にはここまで自立させてほしい。育成のロードマップをブラザー・シスターに渡すだけで、手探り感は大幅に減ります。

「何をすればいいかわからない」状態でいる人と、「ゴールが見えている」状態でいる人では、余裕の量がまるで違います。

処方箋②「育てること」が報われる仕組みをつくる

ブラザー・シスターの頑張りが、目に見える形で評価されること。
これが、育成文化をつくる土台になります。

「担当した新入社員の成長を、面談で話し合う機会をつくる」
「ブラザー・シスター経験を査定の評価に入れる」
形はさまざまでいい。大切なのは、「育てることは、報われる」というメッセージを組織が出すことです。

処方箋③ ブラザー・シスターが「話せる場所」をつくる

月に一度でいい。OJTを担う先輩社員同士が集まり、「うまくいったこと」「困っていること」を話し合える場をつくること。

孤独に戦っていた人が、「同じことで悩んでいる人がいる」「こういう関わり方もあるのか」と気づける場は、それだけで戸惑いを軽減します。「一人じゃない」という感覚が、頑張り続けるための燃料になります。

6月の賞与面談は、育成を見直す最大のチャンス

もうすぐ6月の賞与面談がやってきます。

この時期、管理職は部下ひとりひとりと向き合い、上半期の振り返りを行います。実はこのタイミングが、OJTを担う先輩社員(ブラザー・シスター)に「あなたの育成への関わりを、ちゃんと見ていたよ」と伝える絶好の機会です。

業績の数字だけでなく、「新入社員にどう関わってきたか」「どんな工夫をしたか」そこに目を向けた面談ができるかどうか。それだけで、ブラザー・シスターの「やってよかった」という実感は大きく変わります。

「面談で上司に育成の頑張りを認めてもらえた」ことが、戸惑いかけていた先輩社員(ブラザー・シスター)を立て直したケースを何度も目にしてきました。

「見ていてくれている人がいる」という安心感が、人を動かします。

ブラザー・シスターを担う若手社員が「主体的に動ける」ようになるための、上司・管理職としての関わり方を解説しています。

「育てる組織」は、育てる側を育てている

最後に、Tenmaruが大切にしている考え方をお伝えします。

「育てる組織」とは、新入社員や若手社員だけを育てる組織ではありません。
育てる側であるOJTを担う先輩社員(ブラザー・シスター)や管理職も、同時に成長できる組織のことです。

新入社員と関わることで、ブラザー・シスター自身が「教えること」を通じて仕事を深く理解する。人との関わり方を学ぶ。組織への貢献実感を得る。そういうサイクルが回っている組織は、全員が成長し続けます。

しかしそのサイクルを回すためには、「育てる側を支える仕組み」が必要です。任命して、あとは放置…これでは、いつか誰かが戸惑い、燃え尽きます。

「育てる文化」は、組織が意図を持って設計するものです。

そしてその設計が会社の強みになり、採用コストを下げ、定着率を上げ、チーム全体の底上げにつながっていきます。

育てる側が抱える戸惑いと孤独、その先にある「ワクドキ」な組織づくりへの想いを綴っています。

管理職の「面談力」を高めて、育てる文化をつくりたい方へ

「育てる側を育てたい」
そう思っている人事担当者・経営者の方に、Tenmaruからご案内があります。

6月の賞与面談を前に、管理職の面談力を高めることが、先輩社員(ブラザー・シスター)への適切なフィードバックにもつながります。
そのための「管理職向けの公開研修」を当社ではご提供しています。
「部下との向き合い方」「育成の基準づくり」「フィードバックのスキル」を体系的に学べるプログラムです。

「育てる組織」を本気でつくりたいなら、まず管理職の関わり方から変えていきましょう。


【管理職】7月9日(木)|新任管理職研修~マネジメント基礎を1日で体系化

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【管理職】9月10日(木)|新人・若手社員育成向上研修~実践OJTマネジメント

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【管理職】10月6日(火)|部下育成の基本スキル研修~タイプ別育成マネジメント

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【管理職】11月19日(木)|面談スキル向上研修~関係性と成果をつくる面談力

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あなたの「ワクドキ」を、組織全体に広げていきましょう。
Tenmaruと一緒に、その第一歩を踏み出しませんか。

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